日本ローカーボ食研究会

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第8章 ローカーボによる2型糖尿病治療の実際

日本ローカーボ食研究会代表理事 
灰本クリニック 院長 医師 灰本 元

 2型糖尿病治療については「ゆるやかな糖質制限食による2型糖尿病ガイドライン2016年」にできる限り詳細に書いたので、参考にしてください。ここでは最低限必要な事項だけ記載します。

1.目標は低血糖を一回も発症しないHbA1c値の管理

 2010年までに行われた3つの大規模比較介入研究を受けて2012年に欧米の糖尿病学会と老年医学会は合同ガイドラインを定め、HbA1cの目標値を大幅に改訂しました。目標値は改訂前の一律6.5% 以下と比べると、70才未満で7.0%(+0.5%)、70才台で7.5%(+1.0%)、80才代では8.0%(+1.5%)とずいぶん緩められました(図8-1)。

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80才以上の高齢者で重大な合併症を多く抱える患者についてはHbA1c値を8.5%にまで緩めるべきだという意見もあります。

 一方、比較介入研究により、低血糖発作の頻度は厳しい治療群でゆるやかな治療群に比べ2倍になることが示され、たった一回の低血糖発作が1.5年以内の心血管障害の発症や総死亡のリスクを約2.5倍に、7年以内の認知症発リスクを2.5倍に悪化させることまで報告されました。さらに、65才以上の高齢者で低血糖を発症した患者を対象とする最近の前向き大規模観察研究で、冠動脈疾患危険因子である脂質異常、高血圧、肥満のうち2つ以上を保持するリスクを併せて解析したところ、一回の低血糖発作によって虚血性心疾患のリスクは4.6倍に跳ね上がることが判りました。
これらを勘案すると、治療目標には一回たりとも低血糖発作を起こさせないHbA1cの値を設定すべきであって、上記の国際的ガイドラインによる年齢別HbA1c目標値は本質からずれているという批判が成り立ちます。低血糖を一回でも起こさないためには、SU剤、グリニドなどのインスリン分泌促進剤およびインスリンの使用は慎重にすべきで、これらを処方してHbA1c値を7.0%以下に下げるような治療はすべきでありません。

2.治療前の糖質摂取量とHbA1c値の関係

 治療前の糖尿病患者の1日の糖質摂取量は150~650g,HbA1c値は6.5%~15.0%までと共に幅広く分布しています。糖質摂取量(g/日)とHbA1c値には正の相関がありますが、摂取栄養中の糖質エネルギーの総エネルギーに対する比率とHbA1c値との間の相関は証明されていません。くわえて、多くの患者にとって総エネルギーの計算自体が難しいので、毎日の食事解析には不向きです。したがってわたしたちは患者の指導にあたり糖質のエネルギー比でなく糖質摂取量の絶対値を用いています。

3.HbA1c値に応じた4段階の糖質制限を実施する層別制限法(2004〜2014年まで)

 2004年からわたしたちは2型糖尿病の治療にゆるやかな糖質制限食を導入しました。当時の方法は治療前のHbA1c値に応じて糖質制限を段階的に行うというものでした。すなわち、夕食のみ週4日の糖質制限をする0.5CARD、夕食のみ毎日糖質制限をする1CARD、朝食と夕食を毎日糖質制限する2CARD、毎食毎日糖質制限をする3CARDの各段階に層別化して指導しました。この方法は患者、中でも高齢者に受け入れられやすく実用的でした(図8-2)。

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CARDはcarbohydrate-reduce dietの頭文字から作った造語です。HbA1c >12%の患者には3CARDを1〜3か月と期間を限定して実行してもらいましたが、HbA1c値が10%未満に低下した時点で2CARDへ、9.0%未満になったら1~1.5CARD(朝食から制限を週4日+夕食制限を毎日)へと段階的に緩める方法を採りました。

 制限の開始に当たり削除する食品のリストを患者へ渡しています。この方法は糖質を多く含む食品の管理と言うことができ、簡便で誰にでも理解できるのでHbA1cを下げるのにたいへん有効でした。2014年までに発表したわたしたちの英論文はこの方法で実施した治療結果の報告です。

4.食品管理からグラム管理へ転換(2015年~)

 CARDという方法はわかりやすいが細かな修正ができないため、つい制限をしすぎるという難点がありました。それを克服するため、2014年発表の臨床研究以後、CARD方式に糖質摂取量の絶対値での管理を加える方向へと転換しました。つまり、糖質のグラム管理への転換で、その臨床研究の結果は以下のとおりです。

 軽症(平均HbA1c 6.9%、平均糖質摂取量252g/日、0.5CARDを指導)の患者群では平均 -74g/日の糖質制限によってHbA1cは6.3% へ低下、中程度の症状(平均HbA1c8.1%、平均糖質摂取量282g/日、1CARDを指導)では血糖降下薬内服患者を除いて平均 -117g/日により7.0%まで低下、重症(平均HbA1c10.6%、平均糖質摂取量309g/日、2CARDを指導)では-156g/日の制限により平均HbA1cは7.5%まで低下という結果を得ました(図8-3)。

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HbA1c 7.4%未満では -70gで-0.6%、7.5~8.9%では -120gで -1.0%、9.0%以上では -160gによって -3.1%と顕著なHbA1cの低下がみられ、わたしたちの指導方法は単純な食品管理から糖質グラム管理へ大きく変貌したのです(図8-4)。

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つまり、スタート時の値の如何に関わらず、患者のHbA1c値を7.0%前後まで下げることができます。この糖質制限をしっかり実行すれば、無用な厳しい糖質制限は不要となり、患者の負担を軽減することが出来ます。加えて、SU剤を中心とするインスリン分泌を促す糖尿病薬服薬患者を半数以下に減らすこともできます。実際、当院ではおよそ服薬を受けている患者を1/5程度まで減らすことができています。

 指導にあたり患者へは、以前のような糖質を多く含む食品のリストではなく、食品中に含まれる糖質量を記載したパンフレットを渡します。詳しくは管理栄養士の解説を参照してください。

5.糖質摂取量の簡単な計算法

  専用ソフトを使って糖質摂取量を計算する方法は正確ですが、時間がかかり過ぎるので実用的ではありません。ソフトを使わなくても糖質を含む食品は脂質を含む食品と違って分かりやすいので、3日間の食事日記でも短時間(10分以内)に計算することができます。

①糖質含有量が多いご飯,麺,パン,芋,小麦由来の皮(餃子,シュウマイなど)だけに集中して計算する。
②もし大量に食べている食品は単体の糖質含量が少なくても無視せずに計算に加える。
③それぞれのメニューに含まれる味付けの糖質は基本的に無視してよいが,もし大量に摂取している場合は計算に入れる。
④食品の糖質含量についてははわたしたちの出版や市販の出版物を参考にする。
私たちの経験ではこの簡便法による計算は専用ソフトを使った計算と比べ、300g/日以内であれば誤差は30g/日程度に収まるので十分に実用的です。

6.主要栄養素と摂取エネルギーの変化

 当院の調査では、当初の糖質制限食の栄養指導により患者の脂質摂取量は統計的には有意に増えたもののその絶対量は5-10g/日とほんのわずかでした。その結果、糖質摂取量の大幅減によるエネルギー減に見合うだけの脂質摂取量の増とはならず、摂取エネルギーは減少しました(図8-3)。糖質制限を実行すると食欲が低下することが原因の一つで、この傾向は日本でもアメリカでも観察されています。もう一つの原因は、患者に対し糖質の減量に見合う脂質増量が必要であることを徹底しなかった指導方法にも問題があったといえます。

 一方、たんぱく質の摂取量については治療の前後でまったく変わりません。ただし、赤肉の摂取量(豚,牛,それらの加工品)が増えると死亡リスクが増えるとの海外の報告がたくさんあるので要注意ですが、日本人の赤肉摂取量は最も多い人でも100g/日以内なのでその範囲内では死亡リスクは増えないとされています。

7.糖質制限の短期の副作用(およそ1年以内)

 副作用は便秘以外にほとんど指摘されていません。便秘で下剤の処方を必要とする患者はまれです。ゆるやかな糖質制限による治療の前後で蛋白質摂取量は変化しませんから、2年間のゆるやかな糖質制限食による治療ではCrの上昇だけでなく尿酸の上昇もみられていません。しかし,Cr 2.0mg/dl以上の腎不全の患者を対象にした糖質制限食による介入研究は無いので,腎不全患者に対しては慎重に対応すべきです。

8.併用糖尿病薬について

 糖質制限食によって糖尿病薬の使用を減らせることは多くの研究が示していますが、糖質制限食と併用糖尿病薬との相乗効果,中でも低血糖の誘発に関するエビデンスはほとんどありません。しかし、私たちはなにより低血糖発症の防止を第一としたため、SU剤,グリニド剤,インスリンの使用については慎重にしています。

 糖尿病薬併用の詳細はあまりにも専門的であるため、このホームページには掲載しません。既刊の冊子、「ゆるやかな糖質制限食による2型糖尿病治療ガイドライン2016」(風媒社)を参照してください。

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